正社員になんかなりたくない


私が新卒で初めて入社した会社には、社名に「パソコンシステムズ」という言葉がついていました。当時は PC-9801やFM-77といった国産パソコンがまだ GUIを持たない時代。
一方で Macintoshが話題になり、俺も理想のパーソナルコンピュータを開発したい!と期待を胸に秘めて入社したものでした。結局その会社が設計開発を海外に投げ出すというビジネス判断を推進した事に失望して、転職を決意したのは、それから15年後です。
私には能力がなかったけれど、会社にも夢がなかった。

もう年齢は40の手前、転職は簡単ではなく、派遣会社に入って、そこ経由で機械メーカーの機器開発部門に入っています。 年収は2/3になりましたが、残業はほとんどゼロで、休日出勤も必要ありません。

あなたが開発好きなエンジニアだったとして、就職して「○○を開発する担当者になった」としましょう。○○はなんでもいいです。 ケータイでも、ゲーム機でも、テレビでも、プリンタでも、自販機でも、信号機でも、もっと派手な、あるいは地味な、何でも。
さて、あなたは、「私は、○○の開発の為なら全人生を捧げる、画期的な○○を売り出してこの世界を変えてみせる…!!」と、意気込むでしょうか?

そういう人ももちろん存在するでしょうが、大抵の人は、そこまでは入れ込まないのではないでしょうか。

以前見た、スタジオジブリのメイキング密着番組で、宮崎駿が怒りながら、アニメーターの描いた絵を消しゴムで消して書き直していました。曰く、「仕事はほどほどにして、他にレジャーなんかやってる奴はとんでもない」とかなんとか。 作品には全人生を注ぎ込むべき、という考えのようです。

アップル社の iPhone。製品としては、ソフトウェアや回路や筐体、デザインや質感まで、今は亡きジョブズの、妥協を許さないこだわりによって作り込まれています。
だからこそ、世界中のユーザーが好んで買い求めるのでしょう。

以前の私も、そのように、仕事に人生を賭けるくらい真剣に取り組む事こそが理想であると、思っていました。 私生活の中でもアイデアを練り、仕事に生かす。それこそが本来の姿であると。

私は学生の頃から MS-DOS の使用経験があり、アラン・ケイのダイナブックの話を知っており、パソコンを作る会社に入ったら、職場はパソコン好きであふれているだろうと想像しました。
ところが現実はそうではありません。 DOSの使用経験者など、私くらいでした。

それから15年、仕事上は、技術の事・人間関係の事など、色々な経験を積みながらも、結局は、「ここにいても、理想のパーソナルコンピューターなど、作れはしない」と思わせる出来事ばかりでした。

自分の人生が目指したいベクトルと、会社のベクトルは、必ずしも一致しない。むしろ、一致しなくてあたりまえである。 ならば、もう仕事とは月給の為だと割り切り、適度な距離を置いて、あとはプライベートで好きな事をすればいいだろう。 そう考えるようになりました。

メーカーの正社員の仕事は、開発ばかりではありません。 日本企業だけかも知れませんが、年月が経ち、年齢が上がるにつれて、どうしても管理的な仕事をやらされる事になります。中にはクリエイティブでも何でもない、くだらない仕事もたくさんあります。
そして毎月、残業時間は長く、かつ成果主義なので時給にもなりません。

今、派遣就業者としてメーカーに入って見ていると、やっぱり正社員の人はつまらなくて面倒そうな仕事をやっているのを目撃します。 残業も多そうです。

昨今、正規雇用と非正規雇用の格差などの問題が指摘されています。その議論の中では、「正社員になりたくてもなれない人が問題」とされています。
また、今まさに、派遣法改正案が国会で審議されようとしています。
正規雇用こそがただしい姿で、非正規雇用は不安定で良くない雇用形態なので…などと講釈を垂れてる法律関係者もいます。

リーマンショックの時は、私も就業先から契約を切られ、8ヶ月ほど辛い思いをしました。また同じ仕事先に呼ばれたのは幸運でしたが、こういう不安定な立場であると、改めて認識しました。
そうではありますが、その8ヶ月を除けば、専門26業務で2004年から契約更新が続いている現在の就業先は、10年も続いているという点でむしろ「安定している」と言えるでしょう。

残業だらけで、くだらない仕事をやらされるのが正社員なのだとしたら。
今でも私は、正社員にはなりたくありません。