我々エンジニアにもできる、 「こんなこともあろうかと」


使うものがマイコンにせよ、FPGAにせよ、電子工作好きの人々の中には当然ながら現役のエンジニアがいる。古くはラジオ少年、無線少年の時代を経て、時代が変っても同じなのは、それなりの「技術」を応用して、何かを成し遂げる点にある。
今まで知らなかった物に触れ、できなかった事に取組む。調べても分かりにくかったり、習得に時間が掛かったりもするだろう。様々な困難を乗り越えた暁(あかつき)には、ついに、自分の手によって動く実物が目の前に現れる。今までは「できないこと」が「できること」に変っている。 それは何よりも喜びであり、自分の成長を実感できる瞬間でもある。

一方で、エレクトロニクスの開発の現場は、以前に比べて劣化の一途をたどっている。開発自体のオフショア化の推進により、国内の現場は空洞化が進んでいる。上司と部下、ベテランと若手といった関係で、徒弟制度のように設計やデバッグ手法が伝授され育てられていった以前に比べて、大企業ではコンプライアンス重視が進んで残業は制限されている。
指示された仕事だけをやっていればよい、それ以外を勝手にやるなんて行為はよろしくない、といった風潮が強まっている。現場で創造的に行動するエンジニアを見かけなくなったと感じている。

半導体などの部品を売り込みに来る営業さんと面会して話す機会がある。
以前はある傾向が顕著だった。売り込む部品 (商品)を、こちらが使う脈がありそうだと熱心に売り込むが、今現在は類似品を使っていないとか、使う可能性が少ないと分かると、途端に相手をしなくなる。 まぁ、商売で売り込みに来ているのだから、当然と言えば当然だ。無駄を省いて効率的に取れる商談をしたいのが本音だろう。

ところが最近、この傾向が変ってきたのかな? と感じる事がある。採用の見込みが少ない部品に関しても、結構丁寧に説明してくれたり、こちらの技術的質問に回答するなど、サポートしてくれたりするのである。

これは推測ではあるが、もう業界自体が、80年代、90年代のように、大量に製品開発して大量に売るという時代では無くなってきたから、各社部品営業も、たとえ小さな商談でも沢山取ろう。だから、たくさんの可能性に賭けて丁寧に売り込もう。そういう空気に変ってきたのだと思う。

半導体部品は、それ自体は高い物もあるが、安い物も多い。ARM Cortex-M0のマイコンが、もう100円前後とか、それ以下の値段で手に入る。FETやトランジスタなどの個別半導体はもっと安い。
しかし、簡単に使えるかというとそうではなく、知識や技術を必要とする。間違って使うと簡単に破壊する。 半導体メーカーが今までアマチュアに冷たかった(今も冷たい) のは、素人の質問に対応しきれないという実情があったのは間違いない。
一方で、そういう点を理解し、正しく使える相手は、ひょっとすると将来の優良顧客に化けるかも知れない。営業はそう考える事だろう。

このような環境の中で、我々エンジニアはどう振る舞うとよいのか。

ズバリ、「大いに利用しよう。」

目の前で開発されている機器の、もう何年も安定して動いているから、といって、改良しようなどと言うライバルは、いないのである。
(すごく沢山いるよ、という職場もあるかも知れない・・・そういう人は、恵まれています!)

こっそり改善案を考案し、実際に作って検証しておこう。そして、機が訪れたら、さっそうと出すのだ。
「こんなこともあろうかと」と言いながら。